「珍品堂主人」読了

井伏鱒二のいきな雰囲気のちょっと滑稽な作品です。

骨董好きが高じて、教職を捨てて骨董商になってしまった男、珍品堂の話です。珍品堂が骨董の取引で失敗して、その損失を埋めるために料亭の雇われ主人になって一時は繁盛させたものの、上手く立ち回れずけっきょく体よくお払い箱になり、また骨董商に戻る、それだけのことなのですが、しっかり引き込まれるおもしろい作品です。

登場人物が作品のボリュームの割に多いように思うのですが、骨董仲間、パトロン、客、女中たち、みな個性的で、その人となりの描写がおもしろさのひとつになっています。また、珍品堂は何かにつけ骨董にかけて例えるのですが、それがピンとくるような、こないような、でも珍品堂は「いい例えだ」と思っている風で、またくすりと笑ってしまう。

その一方で、ちょっとした景色や佇まいの描写がはっとするほどカッコイイ。でも、たぶん作者はそのカッコよさにちょっと照れていて、すぐ茶化してごまかそうとするようなところがあります。そのシャイな感じがいちばんの魅力かな、私にとっては。

今新刊書店に行くと、井伏鱒二の文庫で必ずあるのは「黒い雨」くらいです。次が「山椒魚」。でも、この「珍品堂~」や「駅前旅館」のように、絶版じゃないし、親しみやすい作品は意外と店頭にないのですよね。

でも、私の読書は高尚なものでなく、あくまで娯楽。がんばらないで読める作品優先で読んでいこうと思います。


珍品堂主人 (中公文庫)

井伏 鱒二 / 中央公論新社


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by takibi-library | 2009-10-18 10:47 | いつも読書 | Comments(2)  

Commented by saheizi-inokori at 2009-10-19 10:15
井伏が好きになったのはこの作品とか駅前旅館からでした。
なんともいえない別世界に憧れたんですよ。
Commented by takibi-library at 2009-10-20 21:20
ただの「ちょっと昔の日本」のようで、そうじゃない。筋自体はたいした話じゃないけれど、ひとつひとつの場面にぐっとくる。
読んでいる間は別世界にひたれて楽しかったです。

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