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「燃焼のための習作」読了

堀江敏幸さんの本は、新刊が出るたびに気になって、全部じゃないけどけっこう買ってしまいます。それは、エッセイにしろ、書評にしろ、小説にしろ、装丁がすてきで、読みたい欲求に物欲が上乗せされて、抵抗できないのです。
この本も、カップの底の形をしたしみと銀色の題字の白いカバー、表紙と見返しは同じ茶色の紙で、花布としおりひもがグレイがかったみず色。ため息ものです。(この色合わせで製本したいぞ!)

「燃焼のための秀作」は、探偵事務所の一室で繰り広げられる、とりとめなくつながっていく会話でつむがれる物語です。探偵と、助手と、依頼主、基本的には依頼内容について話しているのですが、探偵は関係のないことも話すように勧め、自分からも話し、しだいにまったく関係のないことへ話が流れていきます。外は激しい雷雨。依頼主は帰ろうにも危険で出られない。あきらめもあって、時間を気にせず、雨の勢いと雷鳴を気にしながら、話し続け、聞き続けるのです。

ただそれだけといえばそれだけの話。人によってはつまらないと思うかもしれません。
けれど、3人のいる空間の密度がゆらぐのがこちらに伝わってきて、不穏などきどきとうっとりする感覚がないまぜになるのがここちよかったです。

雷はなかったけれど、雨の日に読んでよかったな、と思いました。

燃焼のための習作

堀江 敏幸 / 講談社


by takibi-library | 2012-07-09 00:20 | いつも読書  

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