「コットンが好き」読了

夏休み中に読み終わっていたのですが、書き忘れていました。高峰秀子さんの身の回りにあるものを題材としたエッセイ集です。
食べものや日用品といった私も持っている「ふだん」のものから、ダイヤモンドや藤田嗣治さんから贈られた絵など私にはそれを持つことの感覚がわからないものまで、68章あります。

高峰さんの文章の魅力は、映画女優としての品のよさと、それにしては意外なおてんばな一面のバランスがいいところだと思います。
ささやかなものを真摯に見つめる目は女優としての観察眼の鋭さがうかがえます。そして、夫である脚本家の松山善三さんを「ドッコイ」と呼んだり、「ビックラ」、「カッ喰う」など、ちょっとしたことをカタカナで書いているのが私は好きです。
つい最近も、講演会のあとの大パーティーで、私の背後からツと和服の袖がのびて、私の手に小さな紙包みが渡された。「あ!」とおもって振り向いたときはもう、その女性の姿は人込みの中に消えていた。宴会が終わってホテルの部屋に戻り、紙包みを開いた私はおもわず目を見開いた。プレゼントは、白木綿に刺し子をほどこした小型の「ふきん」だった。
華やかな金ラメのロングドレスの膝に置かれた二枚のふきんは、電気スタンドの光を眩しそうに受けながら、優しい恥じらいをみせて息づいているようだった。
「ふきん」を贈ってくれたあの女性は、何処の何方やら見当もつかず、お礼の言葉も言うことができないけれど、手作りの「ふきん」を贈られるような老女になった自分自身を、私は嫌いではない。
生きていてよかった。   「ふきん」より
三年前にエジプト旅行をしたときも、私は化粧水を入れるプラスチックの容器にしょうゆを入れて、常時持ち歩いていた。同行の私の夫・ドッコイをはじめとした男性四人は、毎回、私がホテルの食堂に現れるたびに、私のハンドバッグのあたりにチラリと流し目をくれて、期待に燃えた表情でニッタリと笑ったものだった。瓶ごと渡そうものならしょうゆはアッという間になくなってしまうし、第一、テーブルにのせるのはコックさんやボーイさんに失礼だから、私は誰も見ていないときに、それこそ、目にもとまらぬ早業で、みんなのお皿にチョチョッ、としょうゆを振りかける。この作業はなかなかに熟練を要するから、真似をしようったって無理である。シシカバブも魚のグリルも、たったひとしずくのしょうゆによって、コロリと味が変わるのが、まるで魔法のようで、今更ながらしょうゆの威力に、野郎たちはビックラした様子だった。   「しょうゆの国ニッポン」より


コットンが好き
高峰 秀子 / 文藝春秋
ISBN : 4167587076
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by takibi-library | 2006-09-03 10:18 | いつも読書 | Comments(0)  

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