「わたしを離さないで」読了

*前回の感想*

 [注]この投稿へのコメントには、本の内容に触れたやり取りがあります。
   Amazonの内容紹介や本の背表紙等に書かれたあらすじ以上のことを
   知りたくない方は、コメントをご覧にならないでください。

おとといの晩、読み終わりました。昨日感想を書かなかったのは、なんとなくブログを更新すること自体がおっくうであったこと(寝坊したので活動時間に制限があったため)、読み終わった直後でさえ、この本について語るべき言葉が浮かばなかったことが理由です。

語るべき言葉がないというのは、キャシーが話したいことはここまでなのだから、聞き手である私はただそれを受け止めて、私自身の中に落とし込めばいいのだと思ったからです。
そして、落とし込むには少しばかり時間が必要でした。

私はこの本が好きです。
キャシーや友人達の日常も、寒い土地(イギリス)での暮らしぶりは質素だけれど、本人たちがそれなりに温かさを感じ、満足しているところがいいです。

そして、小説としては、私たちの日常をつなぎ合わせたような、とるにたらないエピソードの集合体のようでいて、たしかに切実な物語になっているところが、読みやすさであり、読者を引き込む仕掛けなのかもしれません。
いちいち考え込まずに「そういうことってあるよね」と思うことばかりなのですが、主人公たちは、私たちにはない大きな不安や悩みを抱えているということが、少しずつ砂を刷毛で払って発掘するように見えてきます。

一気に掘り出そうとすると壊れてしまうんです。だから、ゆっくりと時間をかけて、キャシーが語る言葉に耳を傾けるしかないのです。
そんな、静かな、でも興味深い小説でした。


ところで・・・①
この作品の原作者+訳者は、「日の名残り」と同じ組み合わせだそうです。
「日の名残り」も読んでみたくなりました。

ところで・・・②
イギリスが舞台ということからの私の思い込みですが、主人公のキャシーと親友のルースが回復室で食べる"ビスケット"がおいしそうだなぁと思いました。けして明るい場面ではないのですが、ビスケットがささやかに明るさをもたらしているような感じです。大げさですね。


わたしを離さないで
カズオ イシグロ / 早川書房
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by takibi-library | 2006-09-17 11:47 | いつも読書 | Comments(6)  

Commented by saheizi-inokori at 2006-09-18 12:51
そうですね。大声で感想を語るというものではないですね。
激しい感動をむりやりにというのではなく、静かな諦観で包み込んでいるのだと思いました。

静かな暖炉のそばで降る雨を見ながらビスケットを食べる。お気に入りの紅茶を淹れて、そういう気分?
Commented by takibi-library at 2006-09-18 17:57
あの場所では、ビスケットという素朴な食べもの(でも甘いもの)がしっくりきている感じがしました。
暖炉、いいですね。
わが家はマンションなので、暖炉は夢のまた夢・・・オイルヒーターの上で結晶化したはちみつを溶かしてよろこぶのが精一杯です(笑)。
Commented by Yaga at 2006-09-20 02:01 x
私はいまだにこの本の感想をはっきり文字にできないでいます。
ただ、例えば友人が「そう言えばイギリスの提供者はさ…」なんて会話を始めたとしたら、ああ、やっぱり現実の話だったんだ、と思えてしまうような怖さを感じています。

「日の名残り」は映画もお薦めですよ。
Commented by takibi-library at 2006-09-21 11:03
私は主人公たちの特殊な境遇については、あまり考えないことにしています。それは、著者にとってそれは設定の1つでしかないし、現代社会に対して科学的な見地から警鐘を鳴らすことがこの本の目的ではないと思ったからです。

この本には、どういう経緯であれ、この世に人間の形に生まれてきた以上は、夢を持ち、わからないことを知りたいと思い、他者を理解し共感しあいたいと願い、自分に課された使命を果たしたいのだ、ということが描かれていました。
それが「人間」の定義なのだと思います。
Commented by Yaga at 2006-09-21 13:23 x
私はクローン技術だの臓器移植(これはそのままだけど)など現代の医学の進歩に関する怖さの面が少なからず描かれているのかなぁという感想を持ったんだよね…。そして、提供者たちが提供者である運命を疑問に思ってないことも不思議だったし、提供者という運命の元にいる子供たち、若者たちに対して情操を養うような教育をする施設に残酷さを感じてしまっていたりします。以前の施設はそうじゃなかったみたいだし、それをまた「私は間違ってなかった」と先生が結論付けてしまうところも、「どうしてそう言い切れるのかなぁ」と。極論ですが、提供者という使命を背負っているならそういう教育は不要、むしろそういう感情を殺してしまうような教育(というかマインド・コントロールになってしまうかな)をした方が楽に提供できるのではないかと思ってしまったのです。そうなるともう人間ではなくなってしまうのだろうけど。でも提供者って存在を作ること自体、人間扱いではないような…ふ~む。

お、ここまで感想を文字にできるようになってしまったということは、もう少し時間が経つとまた違った感想を持つのかもしれません。もう一回読んでみようかなぁ。
Commented by takibi-library at 2006-09-21 15:09
キャシーが語りかけてくるものは、彼らの境遇が正しいか間違っているかの問いではなく、親友をはじめとする、彼女が関わってきた人々とのことだと思いました。彼女の知ってほしいことはトミーやルースと築いた信頼や彼らに対する彼女の思いです。
そして、先生が「間違ってなかった」と思う根拠はそんなキャシーの存在そのものだと思います。

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