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「黒い画集」読了

時代が違うと言ってしまえばそれまでですが、いまどき、この短篇集の何作かに出てくるような男の人たち――愛人を作ったり(囲ったり)、妻に浮気をされたりする人たちは、どのくらいいるのでしょう。
読み終わって、まずそのことを想像しました。

この本に出てくるる人たちは、それほど特別な資産家や、社会的地位の高いひとではありません。ただ、そうでないという限界点が、いろいろな障壁が発生する起点にもなっています。平たく言うと「金の切れ目が縁の切れ目」だったり、より若々しかったり、地位の高かったりするライバルを鷹揚に迎え撃てない態度に愛想をつかされたりします。その挙句、異常なほど執念深くなったり、殺意を抱いたり抱かれたりします。

一連の作品が連載されていたのは週刊朝日でした。そして、登場人物を囲む世間についての描写も具体的です。
連載をリアルタイムで読んでいたら、きっと「そこらへんで起きたできごと」のように感じられたと思います。それとおなじくらい、愛人を作ったりすることが「そこらへんで起きて」いたのでしょうか?

そんな、無駄な考えごとをしながら山手線などに乗っていると、向かいに座る、とりたてて目立つこともない中年男性も、実はドロドロの人間関係の渦中にいたりするのか?などと想像してしまいます。

ところで、そんな作品が多い中で、1つだけ「天城越え」だけは、ちょっと趣が異なります。
でも、この作品は、独占欲というものは、人間がもともと持って生まれているものだということが描かれています。それが発揮する結末が鮮烈です。

黒い画集
松本 清張 / / 新潮社

by takibi-library | 2007-03-05 15:06 | いつも読書  

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