「駅前旅館」読了

なーんてことない話なのですが、主人公である番頭・生野の一人称で語られる話は、読み終わってから直接聞いたことのような印象が残ります。

私は駅前旅館がどういう旅館なのかは知りません。旅行に行って、駅を出たら旅館があって、店先で番頭さんが呼び込みをしているところに遭遇したこともありません。けれども、生野の話を聞いて、駅前旅館事情に通じたような気分でいます。この感覚はけっこう楽しいです。

この作品の登場人物は主人公・生野だけでなく、ひとりひとりのキャラがしっかりしていて、リアリティがあります。それは、そこここに描かれる昭和30年代の日本の様子、ものや風俗にも言えることで、それがきっと、私が直接話を聞いた気分になる仕掛けです。

本当にこんな旅館があったんだろうなぁと思わせるていねいな描写、ちょっと色っぽい雰囲気、娯楽としての読書にはもってこいの作品だと思います。

駅前旅館 改版 (新潮文庫 い 4-5)
井伏 鱒二 / / 新潮社
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by takibi-library | 2008-03-15 16:39 | いつも読書 | Comments(4)  

Commented by saheizi-inokori at 2008-03-15 23:21
井伏らしい楽しさがある小説ですね。
映画も面白かった。
Commented by takibi-library at 2008-03-16 07:00
映画化されたことは解説で知りました。キャストが紹介されていて、それがまた魅力的。生野は森繁久彌さんだったんですね。私が知る森繁さんは"おじいちゃん"役ばかりなので、すれっからしだけれど、女性の仕草にどきどきする番頭って想像がつきません。
Commented by saheizi-inokori at 2008-03-16 09:36
この映画で当てた後「駅前シリーズ」が始まったのだと思います。
加藤大助とか小林桂樹、、懐かしいです。
もっとも文学的な香りは「旅館」で終わりましたが。
井伏さんは骨董趣味が合って「海揚り」などという作品もあります。
生野をめぐる人物たちに自画像も含まれているのかもしれませんね。
Commented by takibi-library at 2008-03-16 16:18
>生野をめぐる人物たちに自画像も含まれているのかもしれませんね。

するどい!実は河上徹太郎の解説に、「(ある登場人物が話し始めると)私はしばしば井伏鱒二御当人と酒を置いて歓談している時のようないい気持ちになるのである」と書いていました。

今年、井伏鱒二はマイブームです。

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