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「燃焼のための習作」読了

堀江敏幸さんの本は、新刊が出るたびに気になって、全部じゃないけどけっこう買ってしまいます。それは、エッセイにしろ、書評にしろ、小説にしろ、装丁がすてきで、読みたい欲求に物欲が上乗せされて、抵抗できないのです。
この本も、カップの底の形をしたしみと銀色の題字の白いカバー、表紙と見返しは同じ茶色の紙で、花布としおりひもがグレイがかったみず色。ため息ものです。(この色合わせで製本したいぞ!)

「燃焼のための秀作」は、探偵事務所の一室で繰り広げられる、とりとめなくつながっていく会話でつむがれる物語です。探偵と、助手と、依頼主、基本的には依頼内容について話しているのですが、探偵は関係のないことも話すように勧め、自分からも話し、しだいにまったく関係のないことへ話が流れていきます。外は激しい雷雨。依頼主は帰ろうにも危険で出られない。あきらめもあって、時間を気にせず、雨の勢いと雷鳴を気にしながら、話し続け、聞き続けるのです。

ただそれだけといえばそれだけの話。人によってはつまらないと思うかもしれません。
けれど、3人のいる空間の密度がゆらぐのがこちらに伝わってきて、不穏などきどきとうっとりする感覚がないまぜになるのがここちよかったです。

雷はなかったけれど、雨の日に読んでよかったな、と思いました。

燃焼のための習作

堀江 敏幸 / 講談社


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by takibi-library | 2012-07-09 00:20 | いつも読書 | Comments(0)  

「安閑園の食卓 私の台南物語」読了

物語のようなエッセイでした。

著者は1930年代に台南で生まれ、結婚するまでの約20年間を実家である「安閑園」と呼ばれるお屋敷で過ごしました。そのころの思い出をつづったのがこの本です。
敷地は広大で、野菜畑や果樹園があり、二人の兄の一家も一緒に住んでいます。裕福な大家族、わたしにはそれだけでとくべつな物語のように思えました。

くいしんぼうにとって、何より興味深かったのは、母とお抱えの料理人とがもたらす豊かな食生活。
中には「血液料理」とか「豚の脳みその料理」とか、ぎょっとするものもあるけれど、季節や生活の節目に家族と食べる料理など、いかにも豪華で手の込んだものは、文章だけでも華やかさが伝わってきて、夢のようです。
ところどころに、無理だとわかっていながら載せている(と思われる・笑)レシピもおもしろいです。作り方が日本では聞いたこともない方法のこともあって、その光景を想像するとわくわくします。

食べものの話はわかりやすいお楽しみですが、この本には家のしきたりや、季節行事、風習なども描かれています。日本に暮らすわたしにもピンとくるもの、近そうで全然違うなと思うこと、いろいろです。

今、「日本に暮らす」と書いたけれど、それだけでくくっていいのかなと、思いました。
わたしは、ふだんは両親と妹との4人家族でしたが、21歳のときまで母方の曾祖母が存命だったので、ずっとそれこそ盆と正月には曾祖母を頂点とした大家族が顔をそろえて食事をしていました。多いときは40人くらいいたのではないでしょうか。
曾祖母の家=母の実家は仕出し屋をしていたので、それだけの人数をまかなうインフラがあったからでもありますが、親のいとこの子どもの顔や名前がわかるというのは、近いところで父方の親戚の認知度と比べても、珍しいことだと思います。

父方は、父が4人兄弟だったので、わたしにはいとこがけっこう多いです。東京や大阪にいたり、父の生家のある山梨にいたり、みんなばらばらですが、法事などにはわりとみんなよく出てきて、会うと小さいころの思い出話や近況について話すことが楽しいです。男の子(という年でもないけど)たちのお嫁さんも子どもたちもいっしょに来てくれて、とてもにぎやかになります。こういうとき、子どもってすごいなと思います。お年寄りが「若い人がいるっていいわねぇ」という気持ちがわかるような。身近に子どもがいない分、よけいにそう思うのかもしれないけれど。

そういうこれまでの経験から、著者の暮らしぶりに共感する部分がかなりありそうです。

この本を読んで、こういう親戚づきあい、血縁とか血族とかいうものの感覚をあらためて意識しました。
最近よく耳にする「コミュニティ」がどうもしっくりこないのも、地縁、血縁に基づく旧来のコミュニティの考え方にわたし自身が思っている以上に慣れ親しんでいるのではないか。それで今の新しい定義の「コミュニティ」に戸惑っている、旧来のコミュニティほど気楽にいられないと感じているのかもしれません。

なんだかちょっと重たい話のようですが、本人は「そういうものかもね」とひとりごちているだけのつもりです。
「安閑園の食卓」は、くいしんぼう万歳の心で楽しんでいい本ですから、興味のある方はぜひ。

安閑園の食卓 私の台南物語 (集英社文庫)

辛永清 / 集英社


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by takibi-library | 2012-07-06 22:20 | いつも読書 | Comments(0)  

「計画と無計画のあいだ」読了

読み終わって、1週間経ちました。

周りに最近読んだという人がけっこういる、ということがふだんはあまりないこともあって、さらに、周囲の評判とわたし自身が感じたことに差があって、感想の書き方にすこし悩んでいました。めんどうくさいから、書かないでおこうかなとも思いました。
でもその差は、10年以上勤めた大企業を退職してもうすぐ6年経つわたしが折につけ感じていて、どうにかしたいと思ったり、どうにもならないとあきらめていることそのものでもあるので、一度、収拾がついていないなりに文字にして、後日、読み返してみようと思います。

計画と無計画のあいだ---「自由が丘のほがらかな出版社」の話

三島邦弘 / 河出書房新社



われながらあまのじゃくな感想です。
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by takibi-library | 2012-06-03 00:19 | いつも読書 | Comments(0)  

「澁澤龍彦との日々」読了

澁澤龍彦の本は、「高丘親王航海記」と「フローラ逍遥」しか読んだことがないのですが、この2つが大好きです。

先日の南伸坊さんの書評で、奥様の澁澤龍子さんのエッセイがあると知って、書評で紹介されているのは「澁澤龍彦との旅」ですが、まずは先に出ていた「澁澤龍彦との日々」から図書館で借りてきました。

とても自然な、近所に暮らしていそうな夫婦の様子が描かれていて、楽しかったり切なかったり、ずっと読んでいたい、この空気の中で過ごしていたいと思いました。
そしてうれしかったのが、龍子さんが澁澤作品の中でいちばん気に入っているものが「フローラ逍遥」(単行本は絶版)だと書いてあったこと。装丁のすばらしさもその理由の一つに挙げていて、わたしが古書の即売会で手に入れたときのよろこびが分かち合えたようで、この本を読んだ思い出にしたいです。


ところで、内容だけでなく、「澁澤龍彦との日々」の単行本は糸綴じであることも魅力的です。ベッドで寝転がって読むにも、テーブルについて読むにしても、本を押さえたり、支えたりしなくていいと、読書ってさらに快適なのです。

でも、糸綴じということは、手製本しやすいということ……ゆくゆくは「~日々」「~旅」2冊入手して、好きな布で製本……夢が広がり過ぎてたいへん、たいへん!

澁澤龍彦との日々

澁澤 龍子 / 白水社


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by takibi-library | 2012-05-25 22:06 | いつも読書 | Comments(0)  

「39歳 女の愛の分岐点」読了

ふだん手に取りもしない本をたまには読んで、守備範囲を広げておきたいと思っています。幅広いジャンルを楽しめたら、「読む本がない」とくよくよすることが少なくなるから、よい読書生活のための基礎的なトレーニングって感じです。

先日読んだ南伸坊さんの書評で気になった、植島啓司さんの本を図書館で借りました。書評で紹介されたものは貸し出し中だったので予約を入れて、比較的新しくてすぐに借りられるものを選んだら、この「39歳 女の愛の分岐点」でした。

タイトルが、けっこうはずかしい。でも、南さんの書評に「その澁澤龍彦さんに「あなたは本当にいろいろなことをよく知っているねえ」と言われた、植島啓司さん」とあったんだからと、気持ちを強く持って読みました。

実際は、そんなに力を入れなくても楽しく読めました。
ひとりもののわたしがひそかに思っていた結婚生活の難しさが、具体的な理由も一緒に、まじめに書いてありました。かといって難しい話や専門的な話はなく、読んでいる間始終ゆかいでした。
自分もそう思っていた!というのではなく、そういうことだったのかと、考えを整理してもらえたすっきり感があって、読んでよかったと思っています。

なんか、ますます、これからが楽しみになってきましたよ。

39歳 女の愛の分岐点

植島啓司 / メディアファクトリー


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by takibi-library | 2012-05-16 22:15 | いつも読書 | Comments(0)  

「Tesoro」、「Danza」、「not simple」:オノ・ナツメさんのまんがはすてき

連休前半は心置きなくオノ・ナツメさんのまんがを読んで浮かれておりました。

それもこれも、コミックを担当されている仙台の書店員さんのおかげです。ありがとうございました。
短篇集を中心にセレクトしてもらって、どれも休暇に読むにはうってつけでした。

「Tesoro」
家族や夫婦の話が多い短篇集。かわいい、かわいい、かわいい。ちょっとほろっとしたり、くすっとしたり。

「Danza」
読んだことのある「COPPERS」の登場人物の番外編が収録されている短篇集。それぞれの話が違う国の町を舞台になっています。1冊読むと、地球は今もまわっていて、どこかで誰かの暮らしが物語を生んでいるのだな、なんて思います。

「not simple」
全1巻。とても悲しい話。主人公・イアンの身の上には複雑な事情ばかりがふりかかる。これでもかと。イアンがほしいものはありふれたシンプルなものなのに、それが最後まで手に入らない。
今書いていても、悲しみが湧いてくるのだけれど、少し甘くて穏やかな気持ちです。
(でも、これがいちばん好き嫌いがわかれそうな気もします。)

はー……どれもよかったー。もっと読みたいなぁ。でも、ちょっと間を空けようと思う。

それでも、個人的には外国が舞台のお話のほうが好きなので、次は「リストランテ・パラディーゾ」にするって決めてます。
ちょっとがんばったら、ご褒美に買っていいことにするんだ! 何をがんばるか決めてないけど!

TESORO―オノ・ナツメ初期短編集1998・2008 (IKKI COMICS)

オノ・ナツメ / 小学館


Danza [ダンツァ] (モーニングKC)

オノ・ナツメ / 講談社


not simple (IKKIコミックス)

オノ・ナツメ / 小学館


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by takibi-library | 2012-05-03 23:30 | いつも読書 | Comments(0)  

「ゴロツキはいつも食卓を襲う」→オノ・ナツメさんの絵が好きだ!

Twitterのタイムライン上に出てきて知った本です。

「フード理論」というのは、物語に出てくる食べもの、飲みものの役割には一定の法則があり、人々の共通認識となっているということを解説するものです。

・ゴロツキはいつも食卓を襲う
・賄賂は、菓子折の中に忍ばせる
・スーパーの棚の前で、ふたりが同じ食品に手を伸ばすと、恋が生まれる

などなど、どれも前後のセリフまでなんとなく想像できるほど当たり前のこと=ステレオタイプです。
それをあえて解説してもらうと「そういうわけだったのか!」と新鮮にやられた!と感じることができる、楽しい本でした。


ところで、タイムラインで知ったのは、この本の出版を記念して開催された、オノ・ナツメさんの挿画の複製原画展があることでした。
オノ・ナツメさんのまんがは「COPPERS」を読んだきりですが、とても気に入っています。
そんなに遠くないところだし、ちょっと見たその絵がなんかすてきでふらふら~と出かけてしまうにはじゅうぶん魅力的だったのです。

絵のことを伝えるのはきっと絵心がないから難しい。でもとにかく、黒の線がパキパキとして、かわいかったり、滑稽だったりするなかに、かっこよさが入っているのです。それにすっかりまいってしまって、「オノさんの作品読まねば」熱が急上昇しました。

ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50

福田里香 / 太田出版


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by takibi-library | 2012-05-03 22:48 | いつも読書 | Comments(0)  

「街の灯」、「水に眠る」読了

北村薫さんの本を続けて読みました。

「街の灯」はミステリーの連作短編集で、昭和初期が舞台、探偵役は士族出の家のお嬢様、英子です。彼女にはお抱えの女性運転手・別宮(べっく)がいるのですが、この時代で女性が自動車の運転をすることは珍しく、また別宮は武術と拳銃の扱いを身につけています。
お嬢様と女性運転手では、運転手のほうが探偵役にうってつけのように感じますが、そうじゃないところが、おもしろいです。お嬢様なので、ひとりで街を歩けなかったり、お付き合いが多かったり、制約も多いのですが、想像力をフルに使って仮説を立てていきます。
時代の雰囲気と謎解き、どちらもほどよくて、平日の昼休みなんかにちょっとずつ読むのにちょうどいい感じです。

「水に眠る」のほうは、ミステリーではないのですが、少し不思議な話が集められています。表題作は水割りに使う水の話。わたしはいちばん不思議に感じた話です。怖くはなくて、ほんとうにあったらいいなと思ってしまうような不思議な話。
中にはちょっと怖い話もありますが、いろいろな話があって、読み手それぞれがお気に入りを見つけられるんじゃないかな。ちなみに、1話ごとに別々の書き手による解説がついています。それもお楽しみ。

街の灯 (文春文庫)

北村 薫 / 文藝春秋


水に眠る (文春文庫)

北村 薫 / 文藝春秋


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by takibi-library | 2012-04-03 22:57 | いつも読書 | Comments(0)  

「昭和元禄落語心中(1・2)」読了

今の作家の本は買わなきゃ、と言っているそばから、借りものの話。

まんが師匠のHさんが「久しぶりに買った」というこの作品。おもしろかった~。つづきもおおいに気になります。

昭和最後の名人といわれる噺家に、刑務所を出所したばかりのチンピラが弟子入りして、という物語です。師匠と弟子、彼らを取り巻く人々・・・登場人物ひとりひとりが魅力的で、それぞれを軸に読むと、さまざまな色合いを帯びてきます。だから3回くらい続けて読んじゃう(笑)。
(個人的には、先代の師匠から仕えている松田さんが気になります。)

今のところ、主人公である元チンピラのキャラクターが(実は)いちばんぼんやりしていて(だだの落語バカではなかろうと読んでいる)、これから何が明らかになるのか、何をつかんでいくのかが楽しみです。
でもやっぱり、なんだかんだで目をうばわれるのは八雲師匠。あの存在感、只者ではありません。

少しだけ落語を知っている人(わたし)には、描かれている時代(から、現在まで)の落語界を取り巻く空気がなんとなくわかるのですが、「落語はあんまり・・・」という人には、ちょっとわかりにくいところがあるかな、そういうところがわかるともっと楽しいかな、と思います。でも、物語はまだはじまったばかり。こんな小さな不満はすぐに消えてしまうくらい、作品への期待は持っています。

昭和元禄落語心中(1) (KCx ITAN)

雲田 はるこ / 講談社


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by takibi-library | 2012-03-24 10:16 | いつも読書 | Comments(0)  

「いろんな気持ちが本当の気持ち」読了

読んだきり感想を書いていない本がたまっていて、さらに今日、また本を買ってしまう。せめてその前に、と、これから続けざまに書いていこうと思います。

まずは、長嶋有さんの「いろんな気持ちが本当の気持ち」。雑誌などに掲載されたエッセイをまとめた本です。
手がけたあとがきや、自作についてのもの、ちょっとふざけた感じの軽く笑えるもの、いろいろ入っていて楽しい1冊になっています。
けれども、わたしにとってはときどき強く響いてくるものがありました。

今年に入ってもう少しで3か月。計算して確認してはいないけれど、たぶん、わたしは去年より多く新刊本を買っていると思います。それには、年の初めのほうでこの本を読んだことが作用しています。

わたしが楽しませてもらっている同じ時代を生きている作家たちが書き続けるためにわたしができることは、その本を買うことだけなのです。
もちろん、全部を買い集めることはできないけれど、これぞという作家さんの本は借りてすまさない。古本屋に出るのを待たない。そういう気持ちで今後の読書生活を送っていこうと決めました。古本であれやこれややっている立場としては矛盾していますが、その矛盾も片手に提げつつ。

いろんな気持ちが本当の気持ち (ちくま文庫)

長嶋 有 / 筑摩書房


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by takibi-library | 2012-03-24 09:54 | いつも読書 | Comments(2)