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「越前竹人形」読了

(私にとっては)名前だけは知っている作家の一人である水上勉の代表作です。ブックピックのWさんがちょっと薦めてたのをたまたまブックオフへ行ったときに思い出して買いました。

話に聞いたときは、代表作=大作と思い込んで、上下巻かと想像していたのですが、実物を見て「薄っ!」と拍子抜けしました。
買った翌日から読みはじめたら、1980年版の中公文庫は字が小さく感じられて一瞬ひるんだものの、1ページ読んだら、それが全く気にならなくなりました。そこからはあっという間。ぐいぐい引っ張られる感じはないのだけど、気がつくとするすると読み進めていました。

舞台となる福井の言葉の訛りはやわらかい、おっとりした印象です。その言葉でかき口説く場面はより切なく感じられる、気がする?のですが、もしかしたらそれは思い込みでしょうか。正しい語尾の意味合いがわからないのでちょっと不安です。

読み終わって思うのは、主人公・玉枝の人生は、とても数奇な部類に入るけれども、そうなるきっかけはめぐり合わせの問題であって、そういう意味での運のいい、悪いは、時代が変わった今でもたしかにあるということです。
玉枝は、どんなめぐり合わせに直面しても、「どうしてこんなことに」とは考えません。「これはしかたがなかったのだ。でもこれだけは守らなくては」と、その都度選びます。そしてその選択については全部自分で責任を取る覚悟でいるので、つらいことも必死でがまんするし、思いがけない親切を受けたときは、涙を流して恩に着るのです。
用心したり、努力したりすることでは及ばないことがある。でも、自分で選んだことだけは全部引き受けると腹を括ってさえいれば、出会ってしまったものはしょうがないんだな、と開き直っていいのかもしれない。

ちょっとメロドラマっぽくて、悲劇的な展開もあるけど、素直に感動しました。読み終わってからのすがすがしさもよし。

越前竹人形 (1980年) (中公文庫)

水上 勉 / 中央公論社


by takibi-library | 2009-04-19 23:34 | いつも読書  

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