「追想五断章」読了
2012年 09月 09日
主人公・芳光は、経済的な事情で大学を休学し、叔父の営む古書店に店番を手伝いつつ居候しています。
自分の境遇を嘆くでも、社会を恨むでもなく、淡々とした暮らしぶりのなかで、いつか大学に戻りたいと切望しています。そこに「父の文章が掲載された雑誌を探している」という女性客がやってきて、はじめは報酬目当てでその仕事を受けるのですが、思いがけず複雑な事情に接することとなり、迷いながらも真相に迫っていく物語です。
依頼主の探す文章は5つのリドルストーリーです。しかし、書き手である彼女の父親はそれぞれに書かれなかった最後の1文を残していて、組み合わせることで浮かび上がる事実を追うのが、謎解きの大雑把な筋です。
ミステリとしてどうかはわからないのですが、芳光の心境の変化が物語としておもしろかったです。
お金がほしいこと、叔父、母との関係、謎への好奇心、すべてに対する不安、冷めているようでどろどろした思いや、かっかする熱っぽさをちゃんと持っている、探偵役でありながらとても生々しい存在でした。
もしこれを芳光と同じ年頃で読んでいたらどう感じたかな、昔の自分に読ませてみたいような気がします。
(でも、今とはだいぶ社会情勢が違うからな……なにせ20年くらい前だから・笑。)
by takibi-library | 2012-09-09 22:49 | いつも読書