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「人形クリニック(ある生涯の七つの場所4)」:姉妹

*前の感想*

「信長の棺」は分厚いハードカバーなので、持ち歩くほうは辻邦生さんの連作短篇にしています。7冊のうちの4冊目。折り返し地点です。

表題作になっている「人形(プッペン)クリニック」は、ある姉妹―宮辺音吉が実際に知り合った女性とその妹の不幸な関係を描いた物語です。
先日見た映画「ゆれる」は兄弟、「人形クリニック」は姉妹ですが、どちらもお互いへの嫉妬がもたらした不幸という共通点があります・・・ということに、再び読んで気がつきました。
カタリーネ(姉)が万事に控え目であったのは、力を出し切って敗れるよりは、始めから勝負に加わらないことで勝敗に無関心でいようとする、自尊心と弱気の結びつきから生れていた。
カタリーネがアンナ・マリア(妹)に対して寛大であったのも、彼女が妹の負けず嫌いな性格にある種の畏怖を感じていたからだった。学校の成績でもピアノ演奏でも、カタリーネはいつもアンナ・マリアを褒めもし、引き立てもしていて、それが両親や教師たちの賞賛の的であったが、カタリーネは寛大を粧うことで、自尊心を傷つけられることから自分を守っていたのである。
これをはじめて読んだときは、「たいへんな姉妹もいるもんだ」としか思いませんでした。でも「ゆれる」と同様、これも嫉妬が爆発して表に出たことで不幸な事件が起きるのです。
前にも書きましたが、私はときどき、妹のことをうらやましく、妬ましく思います。でも、ささやかなそういう気持ちを自覚したり、忘れたりのくりかえしがあったほうが、健全なのかもしれません。


人形(プッペン)クリニック
辻 邦生 / 中央公論社
ISBN : 4122019249


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by takibi-library | 2006-10-29 21:20 | いつも読書  

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